ネットインタビュー (18 後編)
「セイロン紅茶と宝石」
姫野 忠さん
18号の前編では世界遺産にも登録されている古代遺跡シーギリヤにまつわる伝説などをお話しいただきました。後編では最初に、セイロン紅茶についてお伺いします。1. セイロン紅茶の木はコーヒーのピンチヒッター?
スリランカに赴任して特産品の紅茶の値段の安さに驚かされました。 以前に仕事で滞在したインドネシアのバンドンにもおいしい紅茶があり、お土産としてキロ単位で購入したものですが、種類を選ぶことはできませんでした。
それが 「セイロン・ティー」 を生み出す国スリランカでは用途に応じて選択することができました。
この国の特産品となったセイロン紅茶には次のような歴史があります。イギリスの統治下、熱帯地域であることから、先ず 「コーヒー」 の栽培がおこなわれました。しかし風土に適合せず全滅しました。コーヒー園の跡に栽培されたのがお茶です。
お茶栽培は気候風土にうまく適合し、特に南部では土地の高度にあわせて良質の茶葉が収穫できるようになりました。お土産品として収穫地の高度の高い順に 「ヌワラ・エリア」 「ウバ」 「キャンディー」 「ディンブラ」 「ルフナ」 と組み合わせで販売されています。
2. セイロン紅茶の醗酵は?
お茶には大別して日本で愛飲されている緑茶、中国の特産物ウーロン茶、それに紅茶があります。茶木の種類はどれも同じで製造過程での醗酵の度合いによって製品が異なってきます。スリランカでは茶園 (エステート) 毎に製茶工場 (ファクトリー) が有り、観光地のファクトリーでは見学することもできます。なお、スリランカの製造工程で醗酵させる工程が無いとの質問を受けたことがあります。これは日本で醗酵といえば酒麹の醗酵のように室 (むろ) に入れて醗酵させるイメージがあるためです。スリランカでは室 (むろ) は用いられません。気温が高いので、特別に室 (むろ) の必要はなくタイル張りやコンクリートの床に5センチくらいの厚さで広げておけば適当に醗酵してくれるのです。
3. 紅茶のオレンジペコウとは?
紅茶を選ぶとき 「B.O.P.」 や 「O.P.」 表示を気になさる方がありますが、これは製造工程と品質を示す略語で、B.O.P.はbroken orange pekoeの略で、同様にO.P.はorange pekoeの略です。オレンジペコウとは、紅茶の種類ではなく、茶葉の新芽のすぐ下の若い葉の呼称です。brokenは新芽を蒸し臼で潰したものです。
醗酵させた茶葉を乾燥させ篩にかけたり風力で選別したりしますが、茶葉の荒さによってF(fanning)とかD(dust)とか呼ばれます。これらは非常に細かく、茶葉の種類によっては優れた味わいになります。
紅茶を点てるときは温めた茶器に茶葉を入れ熱湯を注ぎ数分間静かに待ってから、予め温めておいたカップに注ぎ、好みで砂糖、ミルクを加えてゆっくりとお楽しみ下さい。
4. 次に宝石の話題に移ります。
スリランカはサファイアなどの宝石産出で有名ですが採掘方法は?
スリランカは 「海のシルクロード」 の真中に有ります。そのため古くから香辛料とともに産出する宝石の商いでアラビアやヨーロッパの諸国と交易が活発に行われていました。 「宝石の採掘」 については、入札により採掘権を手に入れて初めて可能になります。採掘現場は観光目的で見学できるところも有ります。大体、河川の近辺で長い年月の中で雨水が川となって原石となる鉱物を地表に押し出し、その上にまた土砂が堆積し、 「地中に眠る」 という熱帯のパターンがあります。
採掘方法としては、約2メートル四方の竪穴で、10メートルから25メートルの粘土層を掘り抜き、その下にある砂礫をポンプでくみ出し、人手によって砂礫の中から上の写真のような原石を選び出します。選ばれた原石をカットして 「宝石」 にするのです。
スリランカの宝石といえばサファイアが有名です。しかし、私が最初に見つけた書物 “Gems of Sri Lanka”の中に”Rare Gem Minerals”という項が有りAndalusite, Apatite, Diopside, Lolite, Kornerpine, Sinhalite, Taffetiteなどこれまで知らなかった多くの宝石名に遭遇し驚きました。
宝石について興味を持ち何冊かの本を読みました。 地球上の3000種類の鉱物のうちスリランカには200種類が有り、さらに宝石と呼べるものが約75種類もあるそうです。
5. 最後に14年間にわたるスリランカでの生活から思い出をお聞かせいただけますか?
この前ご紹介しましたように私はスリランカで気楽な生活を続けてきたのですが、子供の一人が難しい病気になりました。その看病のためにも家内とともに日本に滞在する必要が生じ、オーナーに伝えたところ、その席で初めて詳細な会社の経営状態を示す数字が示され数年間赤字が続いていることを知らされました。
これ以上私たちの滞在のためにオーナーに迷惑をかけることもできず、また、認可企業としての特典も満期になるため、会社の整理をオーナーに一任して2007年7月5日帰国することになりました。
スリランカの人々は温厚な性格で真面目ですが、赴任した直後には指示した仕事を自分でするのではなく、他の人にやるように言っているのには驚きました。それは嘗て存在したカースト制度の残像です。日常、自分ですることと人にさせるべき仕事の線引きは、自分が決めるという風習が根強いのです。上司からの指示は二の次。平気で他人に任せているのを改めさせるのにはかなりの努力が必要でした。
しがない電話工事会社の駐在事務所長として滞在する間に経験したことをお伝えできることは余り多くはありませんが、スリランカ人と近隣の国の人々を比較できる出来事として、インドでの工事参加の誘いがあったときに経験したことは忘れられません。
工事計画についての打ち合わせ会議で一定の結論を得て、議事録に纏めた上で次回の会議で議事録を基準に話を進めようとしたところ、前回の結論を認めようとせず何時までたっても仕事の話を進められず工事の話から撤退せざるを得なかったことが有りました。
これは人の気性にかかわることではなく、土地の気象に関わることです。バングラディシュでの工事に関してですが、電話回線の集線装置の設置についてスリランカなどでは道端に道路より少し高い土台の上に設置しますが、示された仕様書には地上2メートル以上の高さの土台の上に設置するようにと示されてあったのです。その後、バングラディシュを襲う水害の報道から、仕様書に示されたことの重要さを思い知らされました。多くの大河で形成される巨大な三角州の上に国土があるためサイクロンに襲われると国土の大部分が水浸しになり、船でないと往来が出来なくなるため集線装置を見上げるような高さに設置する作業指示書に感心したことは忘れられません。
面白いお話しをたくさんお聞かせ下さりありがとうございました。
(編集後記) 前編の冒頭で引用させていただいた姫野さんからのメールに 「スリランカテレコムという巨大事業体の圧力により事業規模は縮小の一途を辿り〜」 という文章がありました。南国のノンビリとした時の流れの中にも、あれこれと厳しい日々がおありだったことでしょう。多くの貴重な生活体験談をお聞かせ下さりありがとうございました。
(インタビュアー:鎌田光恵)