Sugar & Salt Corner
No.11    2004年2月25日
佐藤 敏雄 

AT&Tの栄光いまいずこ

KDDの古きパートナーAT&T の携帯電話の関連会社AT&T Wirelessが、2月18日、SouthWestern Bell等の地域会社 グループで構成されたCingularに買収されるというショッキングなニュースが業界を震撼させた。

AT&Tは1885年に設立されたが、100年後の1984年に至り、国際・長距離電話サービスと地域電話サービスの2分野に分割された。 1995年にはAT&T Corp、Lucent、NCRの3企業に分割され、Bell電話研究所を引き継いだLucentが、通信機メーカーとして 活動している。2000年にはAT&Tグループの再編がなされ、AT&T Business、AT&T Wireless、AT&T Consumer、AT&T BroadBandの4社に分割された。

2001年7月に至り、携帯電話のAT&T Wirelessが独立の会社として分社された。当初全米第1位のシェアを誇っていた 同社は現在3位に転落している。同社はアナログのAMPS方式から当初US-TDMA方式でデジタル化を開始したが、現在は ヨーロッパのGSM/GPRS方式にアップグレードしている。2001年にはNTTドコモが1.1兆円(16%)の出資をした。 しかしながらその後株価は下落を続け、ドコモは7000億円とも言われる株式の評価損失を計上するに至った。 最近に至りAT&T Wirelessに対してCingular、Vodafone、T-Mobile等の大通信事業者が買収の提案を行いその行方が 注目されていたが、ドコモは撤退し、Cingularによる買収が確定してその幕が下りた。

そのAT&T Wirelessについて数日前、次のような記事が報道された。昔日の栄光を知る者として 感慨深いものがある。

AT&T Wireless:役員に超ボーナス、従業員には紙屑オプション

シアトル郊外にあるAT&T Wirelessの株価は4年前の高値の数分の一でしかないし、業績も低迷している。 最近は他事業者よりも遥かに多数の加入者を失いつつある。にも拘らず、役員は1月、業績評価ボーナスとして 高額の株券を給付された。これは同社がCingular(シンギュラー)への売却を決める1週間前のことであった。

このボーナスは一年以上前に役員会が定めた、業績インセンティブ・プランに基づいて支払われるもので、 専門家によると、売却前の不正操作には当たらないという。しかしながら、会社売却の動きは、従業員の持つ オプションを無価値にする可能性があっただけに、役員へのボーナスの額の大きさとそのタイミングは極めて 興味深いものがある。Cingularは、売却後新会社に移行した従業員に対して補償などしないと言っている。
このような役員に対するおいしいボーナスを知った従業員達は怒りをあらわにし、個人の欲が会社を牛耳って いたのではないかと言っている。

連邦への申し立てによると、会社を売りに出すことを決めた1週間後の1月29日、役員会は12名の役員に対し総額 1350万ドル(15億円)の株券を与えたとのこと。4名の役員は1株15ドル(Cingularが最終的に落札した価格) の株を43,695株(655,000ドル)、CEOのZeglis氏は187,266株(280万ドル)をもらうことになる。

これは、1年前に決められた2003年の業績に基づく(基準は不明だが)ボーナスであるとのこと。このような贅沢な ボーナスが役職に値するかどうかは疑問だとアナリストは評し、従業員は返還して欲しいと言っている。2001年に AT&Tから分社された後、株価は着実に下がり続けていたので、多くの従業員が業績ボーナスとしてもらった オプションは殆ど紙屑同然の無価値なものになってしまっている。同社の株式は60%が従業員によって保有され、 その77%の権利が行使されずに残っている。その平均的価格は1株当たり16.43ドルであるから、Cingularの 提示した15ドルよりも高い金額を出さなければ買い取ることができない。「奴等は1株15ドルももらってるが、 俺達のは水面下だ。こんなの不公平だ」と従業員は怒っている。

2003年には若干持ち直したものの、AT&T Wirelessの総合的な業績は不振であった。株価は5.65ドルから7.99ドル まで41%も上昇はした。9月には最高値9.1ドルをつけたが、2000年4月には35.25ドルもしていたのである。 昨年は1利用者あたりの収入は1%下がって40セント。前年は1株あたり87セントの損失を計上していたが、 今期は16セントの収益があった。加入者数は5%増加したが、これは料金値下げと景品によるもので、利幅は それだけ下落している。2003年には収益改善のため、1億5000万ドルをかけて13%の従業員を整理した。

第四半期は最悪であった。損失は減少し収入は増加したにも拘らず、1年前よりも販促費が2倍増加した。 新しいソフト導入に失敗したため、それでなくとも成長率の低かったデジタルデータ・サービスに対し、 何千もの顧客が何週間も登録できなかった。他社に同番移行 (注) することを断られたという苦情が、 AT&T Wirelessには他事業者に比べ遥かに多く寄せられている。11月の統計では、AT&T Wirelessから他社に流れた 顧客はどの会社よりも多い。

 (注)  電話番号を変えず他の携帯電話会社に乗り替えられるサービス
以 上       
掲載済みS&S一覧次号  "Not Invented Here"症候群