トップページ アーカイヴス 目次 実験旅行の成立

(実験旅行の成立)

前回にて、時刻表から把握可能な路線を網羅した。この種の路線は、これにてほぼ尽きる。あとはすべて正真正銘のローカル・マイナー路線、地域の生活路線のためのバス路線をこまめに乗り継ぐ旅ということになる。
このようなバス路線は運行本数が少なく、なかには日に1〜2本というものもある。第一、所望する路線の存在自体すら覚束ない。場合によっては、徒歩による行程を要する局面もあり得よう。タクシーの使用は本企画の精神に鑑み、禁止とする。
なお、ローカルバスのなかには部分的に高速/有料道路を経由する路線がある。これは勿論、主旨に照らして利用できない。それから、JRバス(地方のローカルバス路線はJRバスもかなり多い)はJRグループの一員なのだからなるべく避けたい。ただし、地域ローカル網であるJRバスは、本州に限って言えばJR本体とは別法人となっているから(九州、四国、北海道では各JR社の直営)他に代わるべき路線が得られない場合には利用可とする(この点、ちょっと中途半端で歯切れが悪いけど)。

このような条件下で行う旅は、時に、行きつ戻りつの試行錯誤も不可避であって、たいそう効率の悪い旅になるであろう。なぜなら、これら地方のローカルバス路線などは市販の時刻表には一切載っていない。それは地元の日常生活のための路線なのだから、至極当然のことである。
地方のバス会社に電話を掛けて調べればいい、というかもしれない。けれど、地方の事情は個々に多様であって,遠隔からはなかなか把握し難い。的確な情報を得るためには、まず、関係地方の自治体官署<市役所/町役場等>にコンタクトするなどして該地方のバスネットワークの実情を調べ、次いで、それに基づき、該バス事業者にアクセスする、という手順になる。しかしながら、ローカルネットワークの路線は往々にしてチマチマと複雑であって、他所者にとって隔靴掻痒の感がある。小田原〜豊橋間のすべてについて的確な情報を得ようとすれば、それは極めて煩瑣で非効率な作業となる。
したがって、この種の情報は、すべて現地での直接調査に委ねる事とする。もともと"旅"の本質は"未知との遭遇"なのであって、それが『旅』の原点なのだ。観光業者お仕着せの既製品の旅ではなく、現地でナマの情報を取得し、現地で迷いながら判断・実行する、という『リアルタイム旅』こそが、本来の『旅』の筈である。

ところで、このような手法で大阪まで何日かかるだろうか? まず、単純、常識的にみて、1日では到底無理であろう。超閑散のバスダイヤ、試行錯誤による時間ロス、などで手こずれば4〜5日を費やすこともあり得る。"無計画"を標榜する旅行であるなら、所要日数を云々すること自体が矛盾かもしれない。しかし、ここでは直感的に『2日』という目安を設定しよう。実行にあたっては、旅行日は2日、予備日を含めて3日とする。そのために、無意味な回り道は避ける。他のモチーフ、例えば名所旧跡の観光などを持ち込んでの迂回や滞留は厳に排除し、ひたすらに大阪を目指すものとしよう。所要日時の問題はこの実験旅行の主要命題のひとつなのである。

それでは、この"旅とは何か"を問う自由な旅の実験に出発しよう。
平素、無意識、無批判に利用している大手、大規模交通機関を否定することにより、『旅』とは何か、をあらためて問い直す旅−−。
不自由な体験によって自由な旅を演出する旅−−。
これぞ、内田百閧ェ創出した阿房列車の系譜である。
つづく

ところで、技術屋で現場出身の私、元来作文が苦手で、本社在勤時には文書の起案に呻吟しました。ところが妙なもので、幾星霜を経た今、その苦しみが懐かしく思い起こされ、ふと、それを再現してみたくなりました。そこで、『役員会提出の調査・出張報告書』を起案するようなツモリで書き上げたのがこの文でした。
たわいない内容に、わざと難解な用語や高踏な表現を用いました。これは 『文字で描いたマンガ』 なのだ、とご理解下さい。

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