ラスベガスへ行った話
第 4 話  樫村 慶一

≪ナイトツアー≫

<ストラトスフィア塔>
  夜の7時にホテルを出発する、「イルミネーション・ナイト・ツアー」に参加した。短い滞在日時でラスベガスを知るには、こうしたツアーを最大限に利用するのが賢明である。大きなバスが日本人のいるホテルを順次回って客を拾っていく。日本人の少ない時期ではあるが、それでも12〜13名は集まったようだ。まず、ホテルの立ち並ぶメイン大通り(ストリップ大通りと言う)の北限近くに立つ「ストラトスフィア塔(塔の最先端まで1149フィート)」に登る。てっ辺までの途中832フィートのところに展望台があり、其の天井部分に、絶叫マシンが備えられている。今は3つあって、一つは、エクスクリームと言う巨大シーソー台である。地上にあれば何の変哲もないだろうが、人間が乗る部分が展望台の縁から外にはみ出すところが味噌で、高さ866フィートの上空に全身がさらされるわけで、発想がなんとも過激である。事故や故障になったらと思うとぞっとした。次ぎが、ビッグショットという、高い塔の上からベンチが一挙に落ちるやつである。”大空への人間射出” と言うのがキャッチフレーズで、横浜の八景島にあるのと同じような物である。ただ在る場所が909フィートの高さにあるのが大違いである。聞くところによると人気がなくて何時も空いていると言っていた。最後はインサニティで、これは空中を回るブランコである。展望台の縁から外に突き出た柱に5つのゴンドラが吊り下がっていて、回りだすと遠心力で大きく外に振れる。どれもこれも、心臓の弱い人には薦められない乗り物で、私は心臓は弱くないけど、高度恐怖症なので止めた。
  しかししかしである。展望台からの夜景は、誰にも文句の出ない正真正銘の100億ドルの夜景と言っても過言ではない。夜景というものはどこも美しい。私は日本でも有数の夜景美を誇る函館、神戸、横浜、勿論東京も見たし、ブラジルのリオ、香港、ニューヨーク、パリ、メキシコ、ブエノスアイレスなど、それぞれが自慢する夜景を随分と見た。しかし、甲乙をつけるとなると、何か基準が必要である。それは、やはり規模であろう。光の輝く密度と色合い、景観の広がる角度とか視界の距離などの優劣が大事である。だけど、このスラトスフィア塔の108階のエレベーターホールから一歩展望台に入った途端に、いままでの各地の記憶は一ぺんに消し去られてしまった。自分がいる塔の展望台が、宝石を散りばめたような光の絨毯の真ん中にいるので、360度全てが五色の輝きの海である。特にホテルの集中するストリップ通りは大粒の”色もの宝石”(ダイヤではない宝石)を並べたように輝いている。まばゆさに目を中空にそらすと、地上の光が強いので星が良く見えないが、24時間運用のマッキャラン国際空港に離着陸する飛行機の夜間ライトの光が、四方の空に流星のように飛んでいる。昼間は西の空に、遥かにシエラ・ネバダの山並みが連なっているのがよく見えるであろう。

<ダウンタウン> ストラトスフィア塔から更に北に行くと、ラスベガス発祥の地といわれる、ダウンタウン地区である。古い街だけに、老舗のカジノやホテルだけでなく、市役所や各種行政機関もここにあり、ラスベガス市の市政の中心になっているそうである。いうまでもなく、ラスベガス市を代表するもう一方の観光スポットでもあり、目抜き通りの「フリーモント・ストリート」の派手な夜景は有名である。洪水のようにネオンの光が溢れているので、、夜間でもフラッシュなしで写真が撮れる。この通りには、ホテル群のあるストリップ通りにはない露店が沢山ある。露店といっても丸い屋台でちゃんと屋根もついている立派な店である。アクセサリー屋、下着屋、CD屋、お菓子屋、電話機を売ってる店などもあるし、無人の店もある。
  フリーモント通りは天井全部が電飾アーケード(フリーモント・ストリート・エキスペリエンスと言っている) になっていて、夜8時になると、天井全体が1250万個の発光ダイオードを使ったスクリーンのようなものになり、優れた解像力を誇る電光絵が一斉に流れる。題材はカジノの街らしく、ルーレットとかトランプとかサイコロなどが多いが、様々な衣装を来た女の子も出てくる。映写時間は5分くらいであるが、上を見上げっぱなしなの首が痛くなってしまう。
  日本人相手のこの観光ツアーには、海苔のおにぎりに、おしんこうと日本茶がセットになった弁当がついている。おにぎりを食べながら、夜の観光バスは派手やかなホテルや通りを縫って走り、ショータイムに合わせて無料ショーを見せてくれたりして、3時間余り楽しませくれる。特別なスポットではバスを降りて見物するが、ラスベガスは街全体がネオンの海の中にあるので、バスの窓から眺めているだけで、世界でも1,2の華やかな夜景を眺めていることができる。

<無料で見られるショー> 陽が暮れてから見るものとしては、ベラージオ・ホテルの前にある人口湖の噴水は世界的に有名だ。私達が泊まった部屋は 「レイクビュー」とうたっている部屋で、25階の窓から見下ろす噴水ショーは圧巻であった。何回見て飽きない。窓が開かないので、テレビを特定のチャンネルに合わせると、噴水に合わせた音楽が聞こえてくる仕掛けになっている。ただ、水だから色がついていないし、電光による色彩もないので、ちょっと物足りない感じがしなくもない。この他に夜の圧巻ショーは、ミラージュ・ホテルの前の火山の爆発シーンで、これも是非見ておきたいエンターテイメントである。屋内の無料ショーでは、ホテル・リオのサンバ・ショーも、其の迫力には圧倒される。日本人には、そのいわく因縁が分からないので余り関心がないようであるが、踊り子達が、観客に撒き散らすプラスティクの首飾りを拾うと、なにかいい事があるらしい。現地ガイドも一生懸命に拾っていた。


【写真説明: 上、ストラトスフィアー塔の展望台から見た100億ドルの夜景の一部。中上 ラスベガスの中心ストリップ通りの夜景。 中下、ダウンタウンの露店。 下、ダウンタウンのフリーモント通りの天井に写しだされる電光画。

第5話へつづく