このごろ思うこと (5)
〜 天引き騒動の果て 〜
銀乃 川太郎
前回のこの欄で、「長寿医療保険制度」の新しい保険料の通知は、新年度に入って4月の年金支給日までに通知されるはずであると書いた。しかし待てど暮らせど、何の音沙汰もない。社会保険庁から、年金払い込み額が変更になったときに来る「年金払込通知書」も来ないまま、とうとう15日になってしまった。朝から全く繋がらない豊島区役所の「医療制度改革担当」と言う窓口の電話を根気よく待ちつづけ、ようやくにして腹の立つ思いをぶつけてやった。本当は彼らに言っても気の毒ではあるので、そこんところは、”悪いね” と一言付け加えるのは忘れない。要するに、この制度は、栄耀栄華が欲しいままであった小泉内閣時代の自民党が ”自民党にあらずば政党にあらず” と野党の声など何処吹く風で、2006年に強行採決した産物である。
いくら待っても通知が来ないわけである。私は年金からは天引きされないグループに入っているからだと言われた。天引きがないため払い込まれる年金額に変更がないから社会保険庁からの通知書だって来るはずがない。年金からの天引きが最大の焦点になっていたのに、”天引きされない” とは一体全体どうゆうことなのか。年金から天引きされない条件があることは知っていたが、まさか、自分がそれのどれかに該当するなんて思ってもみなかった。その理由が判明してみて、k-unetの大方の会員も4月15日の年金からの天引きはなかったのじゃないかと思っている。ここいらが、今回の制度の周知不足の最大のポイントだと思う。福田さんが百万遍頭を下げても下げたりない厚労省の怠慢であろう。
結論を先に説明しておこう。つまり、我々は下記に示す年金から天引きできない三つの条件の2番目の条件に抵触するからだということである。その三つの条件とは次のようなものである。
@1年間の年金額が18万円未満の人、
A年間の保険料と介護保険料の合計が1年分の年金額の半分を超える場合、
B所帯内に65歳未満の国民健保の被保険者が居る場合。
これだけを見て我々の常識で判断すると、いくらなんでも、年金の半分を超えるほどの保険料があるとしたら、それはどんな奴が該当するのかと疑問を持つ、しかも、今度の制度の保険料の上限は50万円と定められている。全然話しのつじつまが合わないではないか。そこに常識を否定する大きな理解の差があることを知った。問題はAの条件である。Aで言っている ”年金額” とは国民年金の ”老齢基礎年金” だけのことを指しているのである。一般に年金と言う場合、我々だったら、厚生年金と国民年金の老齢基礎年金を合わせたものを指すと思う。ところがどっこい、今度の制度では天引きの対象になる年金ははっきり分けられており、優先順位がついていて、第一順位は老齢基礎年金で、厚生年金は第二順位だという。(厚生年金が第一順位の人とは基礎年金制度が出来る前に加入した大正15年位以前の人だと言っている)。括弧内の人を除き第一順位の老齢基礎年金のみがAの条件の対象である。 順位のスライドは行わない。老齢基礎年金の今年の年額は、40年間満額をかけた人で、792000円である。したがって保険料と介護保険料の合計が396000円を越えたら天引きしてはならない制限に引かかってしまう。 k-unetの会員の中には、Aに条件にかかった人がかなり居たのではないかと推察するがいかがだろうか。
年間の保険料と介護保険料の合計が1年分の老齢基礎年金額の半分を超えるような人は大勢いるはずで、この人達の正確な保険料を割り出す選別作業が遅れている。さらに、この人達だけではなく、上記天引きしてはならない条件の@やBの人達の選別も一緒に行わなくてはならない。これらの対象になる人達は4月の年金からの天引きはやらないでいると言う。三つの条件の対象になる人達の数は豊島区の場合、新しい制度の対象者(75歳以上)の約60%だと言われており、最終的にはこのうちの80%は天引き対象にはならないのじゃないかと担当者は言っている。
条件Aが成立するケースは、保険料が高いため老齢基礎年金の半分をオーバーする場合と、保険料が低くても老齢基礎年金も低い場合の二つのケースがある。4月15日から天引をしないと宣言した都内の14の区は、その理由をシステムの構築が間に合わないからと報道されているが、本当は、このような 「年金から天引きできるか出来ないかの判定作業」 が遅れているのが実情ではないだろうか。
以上が、4月から天引きされない、いやそれどころか、ずっと天引き対象にはならないかもしれない理由・原因である。そして、天引きしていない人達の正確な選別を7月までに終わり、全員に7月中に通知し、三つの条件のいずれにも該当しない人には10月の年金から天引きすることを通知する。@〜Bに該当する人達は引き続き従来通り納付書や口座振替などで払うようになる、ということである。
”年金からの天引き天引き” と天下を騒がした大騒動の内幕はこんなところで、A級戦犯の厚労省の役人の高いびきの陰で、最前線の窓口の担当者の嘆きと憤りが電話を通して伝わってきたように思える、
年間の保険料額が今までよりも幾らかは安くなるからと言って、政府の不手際が許されるものではない。一番腹が立ったのは、引かない、引けないという理由の説明通知が全くなかったことである。天引きしないんだから通知がなくてもいいだろうという言い訳は通じないと思う。天引き天引きと言われて、それなりに覚悟をしていたのだから、いきなり天引きなしといわれても、はいそうですか、と納得できるものではないだろう。区役所は平身低頭であるが、彼らに言っても可哀想なので、ほどほどにしてはおいたが。しかし、もし通知がないまま、今月の年金から天引きされていようものならそれこそ大変だったと思う。何の通知もないまま天引きしようものなら、強盗かかっぱらいと同類になるところだったからである。 (2008
4. 16記)