ネットインタビュー (3)
---- フェルメールの絵の3次元CG化 にチャレンジ!----
「AERA」2004年11月1日号と「日経PCビギナーズ」2005年3月増刊号に登場された古市靖夫さんの記事を読みビックリしました。子供の頃から美術館などで絵を見るたびに --- この絵を真横からみたらどうなっているのだろう? --- と空想なさっていたと紹介されています。17世紀オランダの画家フェルメールの絵の3次元CG化に取り組んでいいる古市靖夫さんにネットインタビューでもっと詳しいお話を伺うことにしました。脚注にフェルメールとは誰なのかの解説を入れました。
(鎌田光恵)
1. 5年前に会社を定年退職され、まず最初にフェルメールの 「紳士とワインを飲む女」 の3次元CG化に
挑戦されたそうですね。何故その絵からスタートされたのですか?
時間ができたら模型で世界の名画のジオラマを作ろうと思っていたところ、1998年に個人で買うことができる3次元CGソフトがあることを知りました。作品がゴミとして残ってしまう模型よりも、机上で制作できる3次元CGが老後の趣味には適していると確信しました。
制作にあたっては、ひとつの視点から原画と同じように見えるだけではなく、前後、左右、上下のすべて360°の視点から見てインチキのない、物理的に破綻のないものを作ることを基本としました。そのためいろいろな画集を眺めてるうちに、一番遠近法に忠実であると感じることができたフェルメールの作品群のうち、再現のキーである床のタイルがシッカリと描かれている 「紳士とワインを飲む女」 を2001年2月に作成しました。着手の前後にフェルメールの研究書をいくつか読み、遠近法で絵画を解析する人がいることをも知りました。
フェルメールは30数点しか作品がないので、全部作ってみようという気になりました。さらに3次元CGで再現をしている人はインターネットで調べたかぎり世界に誰もいないという感触を得たので、やる気が漲ってきました。
2. 作業はスムースに進展?
3次元CGの基礎となる数学の思い出し勉強をしながら、3次元CGソフト(Shade) の使い方を練習しつつ制作しました。
フェルメールの全作品の3次元CG化完成ということでいえば、スムースではありません。 ただ、この制作は自分の知らないことを新たに知る楽しみでやっているので、スムースである必要は全くないのです。問題が生じて、それの解決ができたときが嬉しいのです。
作業的にはこの数年でソフトがより改良されたために、原画との比較作業が容易になったり、自分の理解が深まって便利な手法を発見したりして以前より制作方法が合理的になりました。
なお、時間を有効に使うために新しいソフト、高機能なパソコンをできる限り使うようにしています。
3. 壁に突きあたったとき何が突破口に?
壁とは思いませんが、照明、反射、人物、衣装の設定や作成に関して調査をしたり、勉強をしなければならないことがまだまだ沢山あります。ただそれらを気が向いたときだけにやるので、いつ何が完成するかは分かりません。
4. イギリス人のフィリップ ステッドマン教授との幸運な出会い、
教授作成の分析図の入手。何が一番うれしい情報でしたか?
フェルメールの全作品やオランダの絵画を参考にして第1作 『紳士とワインを飲 』 を作ったのち、オランダの家の構造、家具などについて調べようとインターネットで検索していて、ステッドマン教授の 「Vermeer's Camera」 という本があることを知りました。 著者は幾何学的手法と模型でフェルメールの作品を分析していて、私がCGでやろうとしているところと相通じるところがありました。
そこで私は3次元CGでフェルメール絵画の再現に取り組んでいるといってメールで第1作 「紳士とワインを飲む女」 (The Glass of Wine)とそれをモチーフにして作った 「Before the Glass of Wine」 という短いアニメーションを2002年1月に送りました。
すると私の制作に興味があるといって教授が作った家具や分析図を数十枚郵便で送ってきてくれました。 図面そのものよりも20数年間も研究している人が認めてくれたということが一番嬉しいことでした。その後メールのやりとりは100回以上に及んでおり、現在は BBC のドキュメンタリー番組の director からメールが来るようにもなりました。
5. 最近映画にもなった話題の 『真珠の耳飾りの少女』 のCG化にも挑戦されましたね。何か暗さと神秘性を感じる
原画と異なり古市さんの作品はふっくらした、あどけない少女?
オリジナルが飛び出してきたような少女としたいのですが、まだそこまでに達していないのが残念です。フェルメールが描く女性があまり明るくなく、美人でないので制作意欲が多少そがれます。
6. 『真珠の耳飾りの少女』 を上野の美術館でみました。X線写真による
調査で体の立体感を出すためか、下に何本もの斜線が引かれて
いるそうですね。いかに立体感を醸成し、そこから脱却するかを
課題とした画家だと解説がありました。反論は?
カメラの原型であるカメラオブスクラの使用、遠近法の消失点のピンの跡、背景やカーテンの書き換えた、絵の具の材質、塗り方などいろいろ研究したり、作者はこう考えていたとかいろいろ講釈する人がいますが、なるほどと感心するだけで、反論する気はありません。
とはいえあまりの2次元的発想をフェルメール学者がその著書で強く主張するので、それに対して私の3次元画像による見解を伝えて、参考にさせていただくとの答えをもらったことはあります。
7. フェルメールの絵はどうして盗難に遭う?観る者を虜にする?
希少価値があるからでしょう。なんとなく懐かしくなる感じがするからではないでしょうか。
8. フェルメールはオランダのデルフトに生まれデルフトで没っしたそうですが、あの焼き物で有名なデルフトですね。
彼が好んだコバルトブルーやレモンイエローはデルフトの色ですか?
フェルメールの青は宝石のラピスラズリを粉にしたもので非常に高価なものです。フェルメールはこれを多用しフェルメールブルーともいわれています。ブルーのデルフト焼きの裾タイルが絵の中によく出てきます。 これが1辺13cmで再現のひとつの基準ともなっています。レモンイエローはデルフトの色かどうかは知りませんが、黄色の同じ衣装を女性が何枚も描かれています。
9. 次の計画は日本の名画の3次元CG化?
北斎漫画もやりたいと思っています。またカラバッジョ、ラトゥール、ブリューゲル、ハドソン派の風景画など試してみたいものがいろいろあります。アニメーションも手がけるつもりですが、まず、CGソフトの使用技術の向上が先決問題です。
10. CGに関する質問がある場合 古市さんのホームページがあります?
一応HPを作ってありますが、あまり更新をしていません。もう少し作品が進歩したら更新します。
私のHP: http://www.d7.dion.ne.jp/~oldcity/
私の作品の載っているHP: http://www.vermeerscamera.co.uk/home.htm
日本の美術愛好者のリンク: http://www.icnet.ne.jp/~take/link.htm
(脚注)フェルメール Joannes Vermeer 1632-75
粗野な農民の主題や陽気で喧噪な宴会の情景に代わって17世紀後半に台頭した静穏で落ち着いた雰囲気の室内風俗画の代表者。大胆な近接視点の設定と広角視野の導入によって狭いオランダの都市住宅の室内空間を臨場感豊かに再現し遠近法の歴史にも新局面を開いた。現存作品約35点という極端な寡作のためもあって死後まもなく忘却されたが1860年代フランスの批評家トレによって再発見されて以後は着実に評価が高まり今日ではレンブラントと並ぶ17世紀オランダ絵画の最高峰とあまねく認められている。(略)
居酒屋の主人で美術商も営んでいた父の死後、フェルメールは美術商の仕事を引き継いだと思われる。彼の極度の寡作や生前に自作を売った記録の全くの欠如は、彼が生計を他の手段で立て、絵画はもっぱら自分自身の特定の親しいサークルのために制作したことを示唆している。(略)
晩年は絵をほとんど描かず、英蘭戦争の影響で美術商も不振、11人の子供を抱え生活は困窮していたらしい。没後まもなく、家は破産を宣告され多くの美術品を含む彼の財産は競売に付された。(平凡社 世界大百科事典より抜粋)
インタビューを終えて古市さんからのメッセージです。 「コンピュータゲームの世界では3次元CGが大変進んでいますので、これらの制作者が現役を引退して趣味の世界に入るようになると、絵画の3次元化が趣味の1分野として広く認知されると予想しています。」 日本の進歩したPC技術が大挙して世界に出て行く将来を考えるとワクワクしてきます。
(鎌田光恵)