1. 機能仕様
ITUで第3世代携帯電話システム(3G)の国際標準化が進められてきました。その目指すところは、
世界共通の技術標準により、高速移動体に対して144kbps、歩行者の速度に対して384kbpsを、
静止者に対して2Mbpsのマルチメディアサービスを提供するものです。使用する周波数帯は2000MHz帯、
2000年頃のサービス開始が目標ということでIMT-2000の名前が誕生しました。それ以前にはFPLMTS
(Future Public Land Mobile Telecommunication System)というややこしい名前で、欧米の友人など
「フプルンツ??何て呼びにくい名前なんだ」とぼやいていた代物でした。
2. 標準化の経緯
(1) 統合への努力
ヨーロッパでは全ての移動体通信を統合するUMTS (Universal Mobile Telecommunication System)の開発が
進んでいましたが、その候補の一つがW-CDMA(Wideband CDMA)でした。デジタル携帯電話PDCの国際的普及に
失敗したNTTドコモは、ヨーロッパ勢と組み、陸上ネットワークの面で妥協することにより、自社開発の
W-CDMA方式をITUの標準に組み入れることに成功したのです。
一方、既にcdmaOneを導入していた米国の通信事業者とIDO・DDI連合(現KDDI)は、極力既存ネットワークを
活用することで財務的負担を軽くできるとして、その拡張版であるCDMA2000方式の採用を強く主張しました。
両方式の細かい違いは多いのですが、基本的な相違は同期方式とチップレート(拡散速度)です。前者については、
基地局間の同期にGPS衛星を使うCDMA2000方式と、その特許を避けようとするW-CDMA方式の対立です。
またチップレートについては、ISDNの64kbpsを基本とするW-CDMAと、9.6kbpsの倍数になっている
CDMA2000の3.6864Mcpsの違いです(試みに検算してみてください)。その差は僅か5%程度で機能上
大きな差とは言えないのですが、始めは4.096Mcpsを主張し3.84Mcpsまで妥協したヨーロッパグループ
には更なる妥協の余地はなかったようです。
この両者の規格を統一(ハーモナイズ)することを目的としてハーモナイゼーション会合が東京を含む
世界各地を廻って何回も開催されました。S&S子もその大半に参加しましたが、遂に妥協を見ることができませんでした。
ITUの場でも結局この対立は解消せず、表1のようにこの両者を含む5方式をIMT-2000と認めることとなり、
ITUの権威は大きく揺らいでしまいました。
正式名称 | IMT-DS | IMT-MC | IMT-TC | IMT-SC | IMT-FT |
---|---|---|---|---|---|
使用技術 | W-CDMA (UTRAN FDD) | cdma2000 | TD-SCDMA (UTRAN TDD) |
UWC-136 (EDGE) | DECT |
特徴 | Direct Spread | Multi-Carrier | Time Codee | Single Carrier | Frequency Time |
マルチプルアクセス | CDMA | CDMA | CDMA/TDMA | TDMA | TDMA/FDM |
周波数ペア | FDD | FDD | TDD | FDD | TDD |
(2) 3GPP
ITUの意思決定の遅さに業を煮やした実務派達が立ち上げたのが3GPP (3rd Generation Partnership Project)です。
1998年12月W-CDMAグループがこれを立ち上げると、CDMA2000グループも翌1999年1月に3GPP2を立ち上げました。
意図するところは早期標準化です。2番目にできたものだけに「2」が付いているのは、「xxx第2高校」はある
けれど同じ町の昔からの高校には「1」が付いてないのとそっくりですね。
わが国ではこの両者とも標準化することとなり、民間標準化機関のARIB(電波産業会)とTTC(電信電話委員会)
がそれぞれ無線関係とコアネットワーク関係を担当して作業に当たっています。
3.各3Gシステムとその導入状況
2004年に入って、3Gの導入はようやく活発化してきました。2004年3月末、世界でcdma2000-1Xが1億400万
(内680万がEV-DO)、W-CDMAが430万の利用があります。以下、各技術の現状について説明しましょう。
(1)W-CDMA
NTTドコモは2001年10月から世界に先駆けてFOMAの愛称でW-CDMAのサービスを開始しました。端末が高価で
バッテリーの持ち時間が短いこともあり、2002年末の利用者数は15万人に過ぎませんでしたが、ドコモの
戦略転換もあり2004年7月半ばには500万の大台を突破しました。
Jフォンは2002年12月にW-CDMAを開始しましたが、二度も延期した後でのサービス開始です。
Vodafoneと名称を変更してからの同社の業績は低迷していますが、3Gも2004年7月現在、20万人の加入
に留まっています。
(2) CDMA2000-1x
CDMA2000-1xでは144kbpsの伝送が可能で、音声通信なら従来のcdmaOneの2倍の利用者を収容できるもので、
7月末現在、世界中で35の国と地域で68オペレータがサービスをしています。図1に「1x」と呼ばれる由来と
W-CDMAとの違いを示します。CDMA2000-1xは米国の中小事業者が5MHzもの帯域を確保できないことを配慮した
もので、cdmaOneと同じ1.25MHzの帯域幅でよく、従来のcdmaOneシステムと同居が可能です。これを3波
並べたものが「3x」ですが、未だ完成したものはありません。
KDDIでは、既存の800MHz帯のcdmaOneネットワークを改修して2002年4月からCDMA2000-1xを導入しました。
利用者からの反応は極めて良好で、今年7月には利用者が1500万人を突破した事はニュースでご存知のことでしょう。
KDDIは更に昨年11月からCDMA2000-1x EV-DOをWINという愛称で定額方式のサービスを開始しました。EV-DOは
データに特化したシステムで、平均600kbps、最大2.4Mbpsの高速データ通信を実現するものです。
(3)TD-CDMA
最近、IMT-2000の1標準であるTD-CDMAへの関心が高まってきました。この方式はPHSと同じように、送信と受信
を同一の
周波数帯域で行うTDD方式のもので、NTTグループやソフトバンク、イーアクセス等が実験を開始しています。しかし
今更全国展開をする可能性への疑問や、総務省の周波数割当をめぐって紆余曲折がありそうです。